2010/11/04

Bump創業者のお話

ダウンロード数2000万超を誇るiPhoneアプリ、Bumpの創業者の話を聞いてきた。



日本でも利用可能なこのアプリの機能は単純で、同アプリを起動した状態でスマートフォン同士を握り締め、げんこつを(軽く)ぶつけ合うと、お互いのコンタクト先や写真を共有できるというもの。

私も昨年iPhoneを購入後、友人にBumpしようぜ、と言われて、最初は何が何だかわからなかったのだが、今では必須ツールの一つ。日本のガラケーにおける赤外線通信に、若干のソーシャル要素がくっついたもの、という印象。個人的に、衝撃を感知するセンサーと電波の基地局やGPS情報、クラウドでの情報処理という、ローテクとハイテクの組み合わせでできたこのアプリには、日本的な工夫を感じて親しみを感じていたので、話を聞くのを楽しみにしていた。

創業者は、シカゴ大MBAプログラムの中退組。いわく、入学したてのころ、お互いのコンタクト情報をカチカチ手入力する手間を見て、何とかできないものかと悩んでいたそうな。ブレストの過程では、電話同士をシェイクする方法や、お互いの画面の写真を取る方法等、色々考えていた。そしてある日、会計の授業の途中で、「ぶつければいいじゃん」とひらめいたのだと。このアイデアのすばらしさは本人曰く

「酔っ払ったアホ(Drunken idiot)でも理解できる」

という点にあり(※1)、この発想に心酔して、テキサスインスツルメンツ時代の同僚らと共に3ヶ月でベータ版をローンチした。その間のコストは3000ドルだった。

ローンチ直後、シカゴ・トリビューン紙のライターのブログでレビューを書いてもらうことに成功した。そのブログの情報をすぐさま自分でリツイートし、所謂【拡散希望】をそのまま地でやったとのこと。ローンチ後の週末の間に、これで150万DLを達成した。
その後、今や時代の寵児であるYコンビネーターに弟子入り。創業者曰く、これこそが自分たちの意思決定のでの最も大事なアクションだったとのこと。アプリの改良を進めつつ、セコイアから3ミリオンの出資を受けて、陣容も15人まで拡大。途中、アップルのCMでもBumpを使うシーンが取り上げられたことから、一気に知名度は高まり、現在でも毎日7万ダウンロードを記録中。

衝撃的だったのは、ここまで至るまで、ほとんど宣伝を口コミやBuzz頼みにしており、彼らが今までに累計でかけた広告費用は45ドルだけ(Youtubeに乗せるためのビデオテープと、撮影用の黒い布代)だったとのこと。今や、それでデファクトになるのだから面白い。


彼の話を聞いていると、典型的なテック系スタートアップのカラーが見えてくる。
「我々はMBAの人は雇う気はありません」
(じゃあ、そういうお前はどうなんだ、という質問に大して)「だって、創業者3人のうち二人はシカゴMBA中退だから、まあ足してMBA一人分でしょ。テック系スタートアップにコード書かないMBAなんて一人いりゃ十分。」
(マネタイズの方法について)「セコイアが出資してるんだから、彼らも何とかできると思ってるんじゃないかな」

結果、GSBにおいて良く聞く「じゃ、手に職のない俺たちはどうすりゃいいんだろう」という溜め息を沢山聞くことになった。まあ、MBA批判の強いYコンビネータ(参照:松原さんの記事)の有力企業と接すれば、必然的に感ずるであろうことでもあるのだが。

なお、マネタイズについては、講演中はあまり触れられなかったが、既にBumpの機能を用いたAPIを使ってペイパル等とのコラボレーションを行っている(参照)。ペイパル+Bumpというのは、実は私が3月ころ、友達とのプロジェクトでまさにウキウキして進めていた発想(参照)。KPCBの援助を受けている教授までノリノリだったので、そのまま進めていたら、ひょっとしたら今頃火の車になっていたかもしれない。
そのことについて詳しく聞くと、なんとペイパルはBumpがローンチされた2週間後に既にアプローチをしていたとのこと。やはり、技術を見ている人はいるんだし、生兵法というのは怖い、と思った。ローンチ2週後といったら、私はまだMBA受験のエッセイを書いているころだったわけだし。


※1 なお、アホのレベル、という例で用いられていたのが以下;
先日、電話がかかってきて、ブラックベリーでBumpが使えない、という内容だった。ブラックベリー用にはアプリは供給してないんです、と答えると『だから、ブラックベリーでBumpのウェブサイトを表示してるんだよ、何で使えないの?』と怒られたのだと。

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