2010/03/18

起業プロジェクトのスリル


スタンフォードにおける起業は、おそらくほとんどの場合において課外活動的に発生する。ただ、いくつかの授業では、課題として、それをモロに検討させる例もある。有名なのはLaunch Padと呼ばれるデザインスクールの授業(リンク)、GSB及び他学部の日本人学生がプロジェクトを来学期起こす予定で、横で見ていて楽しみである(参照)。

で、私も、あまり大層なことではないものの、、、
先月から、イーコマースの授業の中で起業プランをチームで書く必要があり、そのプロジェクトに結構な時間を費やしていた。私は何となく腰かけで、単位欲しさのやる気のなさを発揮していたのだが、他のメンバーは結構本気で、ヒアリングを重ねたり、日曜の朝から真剣に討議をしたりしていた。教授自身が、数多くのベンチャーを初期状態から観察してきた人であり、最強VCであるKPCBの看板を背負っている人物。成果物はレポートという形態だが、教授自身が「神は細部に宿る」を地で行っている人であるため、そう簡単に見逃してくれるわけがない。その怖さというか、細密さを詰めているうちに、私自身もかなり思い入れが募っていって、どんどんのめりこんでいくような、楽しいプロセスを味わっていた。

肝心の起業プランは、PayPalにおける個人間の少額決済をどうやったらより楽しくできるか、というもの。スマートフォンのアプリを使って、ペイパルにおける決済手続きや、割り勘の機能を簡素化しようというものだった。マネタイズ手段はアプリの販売とペイパルへの事業売却、まあ、安直だけれど、ヒアリングからニーズがあることには自信を持っていた。そこで、貸し借りの状態を可視化して、Bumpの機能で貸借関係を作れるようにして…と色々と機能を定義して、財務モデルをエイヤで作って、いつファンディングを受けるか、何人エンジニアが必要か、といった所まで話を詰めた。自己紹介ページも作り、私は「日本の大学を上位●%で卒業し、金融理論に強く、財務モデルも組める」という、何だか披露宴もどきの恥ずかしい紹介文まで作られてしまった。

そして、何十時間もの熟考の末、レポートを提出。ちょっと詰めが甘かったな、とか感想をもらしつつ、2日ほど試験勉強をしていたら、下記の記事が眼に入ってきた


「ペイパルがiPhoneのBumpアプリを使って、ビジュアル的にお金をやり取り」

ため息がでた。
我々がPaypalのプラットフォームに居候して分け前に与ろうとしていたところ、本家がしっかりとしたソフトを構想し既にExecuteしていた、ということである。チームメンバーとやりとりしていても、落胆というよりは、我々の案の着眼点はMarket Guruの発想力と同じだった、あっぱれだったんじゃない?、という感想だった。

この経験で、自分の専門外のことで起業を簡単にしてしまうスリルというのを味わうことができた。GSBには、それまでの経歴とは全く関係ないことでも、いとも簡単に会社を興す人たちが沢山いる。そして、それが案外成功したりもする。とにかく、人生リアルオプション、という感じで、沢山種をまいて、それぞれちゃんとケアしておけば、いくつかは芽を出して、ひょっとしたら木になるかもしれない、という程度の思いつきにも見える。ただ、これを実際に実行するのは、常識や「社会人」生活を想像したら、些かCrazyなものだ。でも、一件大したことがなさそうなものでも、そこでプランを練り上げて、行動に移す変な力(Mojoという言葉しか思いつかない)がこの世界にはあって、それが人生を面白いものにしている。


(追補1)
Bumpとは、iPhoneの振動センサーとネットワーク情報を用いた連絡先交換アプリである。ケータイの赤外線通信とほとんど機能は同じだが、iPhoneを握った手をぶつけ合うという、わかりやすさが特徴。初めて使う時には中々感動するアプリの一つ。

(追補2)
この前、RockYouのファウンダ―社長が授業に来た際に、ITベンチャーピッチ5カ条というのをやっていた。それは以下のようなもの;

・常にBillionの数字を強調せよ。でかい市場じゃないとお金もらえない。
・自分のアイデアと、アマゾンやアップルといった競合を並べたチャートを作って、相手はこれが全くできてないとコケにしろ。
・ライブでのデモは極力やるな。やった瞬間、詰めてないスペックばかりの話になって、大局的な話はできなくなる。
・Hockey Stick(の形をした、急激に伸びる予測グラフ)を必ず入れろ。
・キャッシュを生みだす時期は、計画には早期と書くな。早期と書いたら、少ない額だけだされて、再来月に儲かってなかったらすぐに引き揚げられてしまう。
・商品のヒアリングはスタンフォード大学みたいなTech Savvyな人たちではなく、サンノゼ大の女子大生に対して行え。そうじゃなきゃスケールなんて得られない。

2010/03/16

イーコマースの要点


今週は期末試験が6本、明日は2本で合計一日7時間も座り続ける予定。日曜にはサマータイムへの移行もあったため、夜になっても明るく、何だか調子が狂っている。

さて、色々と面白かったE-Commerce(メンデルソン教授)の試験に向けて、フレームワークの整理を日本語でやってみた。殴り書きであり、限られた時間・理解度の下でのわかりにくい整理であることはご容赦いただきたい。本当は個別の授業のハイライトを起こしたいところだが、今はそんなことをやっている時間がない。

シリコンバレーにおけるITビジネスを、強引にフレームワークで切ると20個くらいの観点になり、それぞれに有名なケースがある、という点が伝われば幸甚である。あまり、こういった「強引なまとめ」をする人を見たことがなく、とりあえず相場観が知りたい、という人に有益かもしれない。
IT音痴の自分でも、それぞれの用語をそれなりに把握できた、ということと、何より半分以上のケースにおいて当事者の話が聞けたり、少なくとも教授が自分でケースを書いていた、ということは今後とも財産になると思っている。最終回の授業ではスタンディングオベーションも起きた、Wow!の詰まった素晴らしい授業だった。

総じて感じるのは、Buzzワードに騙されてはいけない、というメッセージと、基本的なエコノミクス(ミクロ経済と簡単な財務モデル)において、ほとんどのテーマは解読できる、という感覚である。決して、難解な内容ではないが、それぞれのテーマについてチームで何時間か集中して考えることができた、という経験は流石スタンフォード、と思わざるを得ない。

なお、フレームワークの順番は順不同(教授の名付けた番号)。Scribdは表示が小さいので、詳しく見たい方はリンク先で拡大してください。




OIT356

2010/03/14

(ゴシップ)デスパレートな妻たち外伝

試験中につき、完全に息抜きネタ。今学期は何だか勉強らしい勉強が多すぎて、真面目な学びにはなっているのだけれど、敢えて記事にするには恥ずかしい内容が多い。。。


あるゴシップ誌による記事「リーマンのデスパレートな妻たち」
が面白い。以下は脚色した抜粋。
(留学中に、Vanity Fairなんか読むなと怒らないで頂きたい)


・(金融危機の戦犯扱いされることも多い)CEOファルド氏は、幹部がちゃんと奥さんと仲睦まじくしているかをすごく気にしていた。家族安泰による仕事熱心を願って。
・本人はトレーディングデスク時代に面接で奥様に出会われた。「彼女はかわいすぎる、雇ったら絶対に他の男性の仕事の妨げになるだろう」とコメント。結局、彼自身が虜になった。
・あるMDが43歳まで結婚しなかったことをいたく心配。
・後のCOOとなった社員が電話で夫婦喧嘩をしているのを聞いて、真摯に面談。
・ファルドの大口顧客、娼婦の斡旋を断られて激怒されたという社内伝説。
・ファルド家の家訓「納得がいかなかったら何でも反対しろ。家では俺のことをくそったれ(直訳できない…)と呼んで構わない。ただ、外では家の事情への不満は口に出すな」"Disagree with me all you want in private. Call me an asshole at home all you want. But never air your domestic grievances in public"
・これらの内容は、すべて会社の結束と、仕事への献身のため。「リーマンの嫁」となった女性たちに、ファルドは常に週末を奪ったことを詫びていた。


上述のあたりまでは、何だかまだ、業績のために家族を気にする(やや優しい)会社、という風にも読める。ただ、以下は結構すごい。


・小さな週末のイベントにも、幹部の夫婦での参加は必須。ある幹部の子どもが高熱を出した際には、CEO含む幹部が家の近くでヘリコプターで待機、という事態に発展。
・年一回、奥さん全員強制参加のハイキングが実施された。一部の奥様は松葉づえを持参して欠席を表明するも、その上を行くギブスを付けた奥様が登山を表明して計画は破たん。
・当然、奥様同士の消費競争も激化。慈善団体における地位や、財団の規模においても激しい競争。
・ある役員が再婚した相手が買い物魔だった。その方の年間の「お買いもの予算」は15億円。
・旦那がリーマンを離職したあとの奥様は幽霊扱い、離婚もしょっちゅう、それまでの奥様同士の友人関係は当然消滅。


ここまでの世界を作るリーダーシップそのものに驚く。よく、何十億円も稼いで、何でまだやる気が出るんだろう、という話があるが、消費のレベルと、寄付とか財団の規模といった、新しい次元での「旦那様の競争」が用意されているあたりがすごい。こういう消費スタイルは、ヘッジファンド出身者による寄付パーティでの振る舞いとかに少し感じるところがある。


2010/03/05

心理学の名所に行ってきたぞ

さほど有名な所ではないのですが、後輩のH君がその昔、一生懸命行動経済学の勉強会をやってくれたこともあり、ぜひとも行かなければ、と思っていたので。


マーケティングの理論でよく取り上げられる話として、「あまりに多い選択肢よりも、少数の選択肢の中から商品を選ぶほうが、消費者は購買に動きやすい」という仮説がある。この理論を持ち出すときに、かなりの頻度で取り上げられる論文として、スーパーでのジャムの購買行動を観察したIyenger and Lepper (2000), ”When is Choice Demotivating”(参照PDF)がある。
実験の内容・結果は以下の通り:

1)ある高級スーパーにおいて、学生扮するWilkin & Sons(英国の王室御用達ジャムブランド)の売り子がプロモーション・ブースを設置。半分の時間は、24銘柄(イチゴ等のありがちな銘柄は除かれた)の試食を実施、もう半分の時は厳選された6銘柄(2つは人気銘柄、2つは中庸な銘柄、2つは不人気銘柄)の試食を実施した。
2)試食テーブルに来たお客さんは、ジャムの一ドル割引券をその場で入手し、試食したあと、気に入った銘柄があれば、後ろの商品の棚まで取りにいく必要があった。
3)24銘柄を提示されたお客さんのうち、ジャムを実際に購入するにいたったのは全体の3%に過ぎなかった。一方、6銘柄の試食をしたお客さんの購買比率は30%にも上った。

この結果から、消費者の限定合理性とか、Choiceが多いことは必ずしも良い判断につながるわけでもない、といった結論が導かれ、様々なジャンルの実務/研究に応用されている。たとえば投資信託の販売においても、実際には購買可能な数百銘柄のリストを見せるよりは、厳選された/代表的なリストで顧客に提案を行う、といったアプローチが取られている。


さて、この実験の現場となったのが、
スタンフォードの隣町メンロー・パークにある、Draeger'sという高級スーパーである。初めてこのスーパー・チェー ンに入ったのだけど、明治屋と紀ノ国屋スーパーを足したような、とにかく高級路線。1300ドルのワインとかを普通においてあったりする。目を見張るのは、 中規模のスーパーであるにもかかわらず、息を呑むような商品のラインナップ。


そして、これがそのジャム売り場である。

なるほど、24銘柄という数は、確かに「購買に至る」には多い、とベタに思った次第。

ちなみにここのスーパー、ほとんどのお客さんが明らかに富裕層な雰囲気を醸している。普通のスーパーのつもりで行ったので40分ちかくうろうろした挙句、ジュースと殺虫剤だけ買うという、何とも色気のないことをして帰ってきた。


2010/03/01

ナパを訪ねる

出国前、会社で2004年の入社時に大変お世話になった方から、

「存分に学んできてください(たまには息抜きと文化の吸収も)」

というメールを頂いた。西海岸らしい文化の吸収は何だろう、と思ったときに、最初に思い当たったのがナパのワイナリー群だった。以来半年弱、中々訪れる時間が確保できなかったのだが、一昨日、思い切って、遠出してみた。数あるナパ訪問記としては、あまりに初心者的であることについてはご容赦を。

ナパは、スタンフォードのあるパロアルトからは150キロ少しの所にある。途中、サンフランシスコ市街を抜けて、運転すること二時間少し。2月末は、芥子菜が黄色い花を咲かせている。


ちなみに、芥子菜の花が本当に好きな(変わった)方は、全然関係ないけれども12月のインドを旅することを薦める。デリーからタージマハルに行く途中の、視界が真っ黄色になる体験はAmazingとしかいいようがない。

ナパには本当に沢山のワイナリーがあるけれど、マス向けの所から、ニッチ、招待がないと行けない所、といった序列のようなものもあり、それなりにゲートキーパーが必要な印象。今回はガイドブックすら見ず、裸一貫で臨んでいます。

最初に訪れたのは、Silver Oakという、ネットを頼みに嗅ぎ当てた一件。


入り口から長い道路を入ると、いきなりリムジンが数台止まっている。リムジン専用の駐車場もあり、ナパってこういう所得水準のところなのか、という初期学習が始まる。

ここは、20ドルで2杯のテイスティングと、ワイングラスが貰える。カベルネとピノの試飲のあと、ただいまキャンペーン中ですといって、一本100ドル、2000年のカベルネが一杯ついてきた。一本100ドルのワインなんて、自分のお金では初めて(試飲だけど、一杯だけだけど)なので、何だか嬉しい。

そのあと、ランチに。これまたネット頼みで探し当てたレストランのBuchon。隣にベーカリーもあるところ。


ここでもピノを頂いて、チキンとビフテキという贅沢ぶり。二人で130ドルの昼食とか、これまたいつ以来だろう。段々と良くなる天気に機嫌を良くして、財布がダダ漏れ状態になる。

午後は、たぶんこれぞマス向け、という所なのだろうけど、Robert Mondaviのセラーへ。一人25ドルのツアー(3杯の試飲つき)に参加。


2月末は、まだ苗木がある、というだけの時期。小さな苗木の真ん中に切り込みを入れて、思い切りT字に曲げるのだと。一度芽が出たら、一日5センチのスピードで育つらしい。

平原一面にこれが広がっていると、苗木だけでもきれいなので、夏に来たら(暑いらしいのだけど)尚更凄いのだろう。絶対、また来ないと。



解説をしてくれたソムリエのおっちゃんいわく、ナパのブドウは、夏の間の酷暑により糖度を増したあと、秋口の急激な冷え込みによって皮にタンニンを蓄えるらしい。サンフランシスコ湾から立ち込める霧が、数十キロ北上してこの谷に立ち込めることが大事なのだと。
モンダビさんは、イタリア系の家族の子孫で、禁酒法時代に、家族ごとに200ガロンまで自家消費用のワインを作って良いという特例に気づき、こちらでビジネスを築いたのだとか。

Mondaviのセラーは、なるほど大手という感じで、ものすごい量のリザーブワインを作っている。


鏡写しではなく、ずっと続いてるんです。
これ全部でも、2009年収穫分だけらしい。同じだけの量が、他のフロアに置かれている。圧巻というか、工場萌えのような気分に。この後、3杯の試飲をして、遅くならないうちにそそくさと帰路につく。

こっちは、サウスベイとは違って、天然の緑が豊富だ。どんな写真を撮っても、何だか絵になるな。



というわけで、二つだけワイナリーを回って退散。

今回分かったこと。

・ナパめぐりはお金がかかる。
・でも、つまみなしでもワインがうまい。赤ワインってこんなに美味しいんだ、という感じに。
・でも、一本100ドルのワインとか、どうやったら買う気になれるのかは分からない。
・ドライブするには、ここは最高。お弁当とか広げるだけでも楽しいかもしれない。気軽に来れる距離だし。
・夏はすごく暑そうだけど、景色のためにも必ず来ないと。ちなみにピークシーズンは初冬。