スタンフォードにおける起業は、おそらくほとんどの場合において課外活動的に発生する。ただ、いくつかの授業では、課題として、それをモロに検討させる例もある。有名なのはLaunch Padと呼ばれるデザインスクールの授業(リンク)、GSB及び他学部の日本人学生がプロジェクトを来学期起こす予定で、横で見ていて楽しみである(参照)。
で、私も、あまり大層なことではないものの、、、
先月から、イーコマースの授業の中で起業プランをチームで書く必要があり、そのプロジェクトに結構な時間を費やしていた。私は何となく腰かけで、単位欲しさのやる気のなさを発揮していたのだが、他のメンバーは結構本気で、ヒアリングを重ねたり、日曜の朝から真剣に討議をしたりしていた。教授自身が、数多くのベンチャーを初期状態から観察してきた人であり、最強VCであるKPCBの看板を背負っている人物。成果物はレポートという形態だが、教授自身が「神は細部に宿る」を地で行っている人であるため、そう簡単に見逃してくれるわけがない。その怖さというか、細密さを詰めているうちに、私自身もかなり思い入れが募っていって、どんどんのめりこんでいくような、楽しいプロセスを味わっていた。
肝心の起業プランは、PayPalにおける個人間の少額決済をどうやったらより楽しくできるか、というもの。スマートフォンのアプリを使って、ペイパルにおける決済手続きや、割り勘の機能を簡素化しようというものだった。マネタイズ手段はアプリの販売とペイパルへの事業売却、まあ、安直だけれど、ヒアリングからニーズがあることには自信を持っていた。そこで、貸し借りの状態を可視化して、Bumpの機能で貸借関係を作れるようにして…と色々と機能を定義して、財務モデルをエイヤで作って、いつファンディングを受けるか、何人エンジニアが必要か、といった所まで話を詰めた。自己紹介ページも作り、私は「日本の大学を上位●%で卒業し、金融理論に強く、財務モデルも組める」という、何だか披露宴もどきの恥ずかしい紹介文まで作られてしまった。
そして、何十時間もの熟考の末、レポートを提出。ちょっと詰めが甘かったな、とか感想をもらしつつ、2日ほど試験勉強をしていたら、下記の記事が眼に入ってきた
「ペイパルがiPhoneのBumpアプリを使って、ビジュアル的にお金をやり取り」
ため息がでた。
我々がPaypalのプラットフォームに居候して分け前に与ろうとしていたところ、本家がしっかりとしたソフトを構想し既にExecuteしていた、ということである。チームメンバーとやりとりしていても、落胆というよりは、我々の案の着眼点はMarket Guruの発想力と同じだった、あっぱれだったんじゃない?、という感想だった。
この経験で、自分の専門外のことで起業を簡単にしてしまうスリルというのを味わうことができた。GSBには、それまでの経歴とは全く関係ないことでも、いとも簡単に会社を興す人たちが沢山いる。そして、それが案外成功したりもする。とにかく、人生リアルオプション、という感じで、沢山種をまいて、それぞれちゃんとケアしておけば、いくつかは芽を出して、ひょっとしたら木になるかもしれない、という程度の思いつきにも見える。ただ、これを実際に実行するのは、常識や「社会人」生活を想像したら、些かCrazyなものだ。でも、一件大したことがなさそうなものでも、そこでプランを練り上げて、行動に移す変な力(Mojoという言葉しか思いつかない)がこの世界にはあって、それが人生を面白いものにしている。
(追補1)
Bumpとは、iPhoneの振動センサーとネットワーク情報を用いた連絡先交換アプリである。ケータイの赤外線通信とほとんど機能は同じだが、iPhoneを握った手をぶつけ合うという、わかりやすさが特徴。初めて使う時には中々感動するアプリの一つ。
(追補2)
この前、RockYouのファウンダ―社長が授業に来た際に、ITベンチャーピッチ5カ条というのをやっていた。それは以下のようなもの;
・常にBillionの数字を強調せよ。でかい市場じゃないとお金もらえない。
・自分のアイデアと、アマゾンやアップルといった競合を並べたチャートを作って、相手はこれが全くできてないとコケにしろ。
・ライブでのデモは極力やるな。やった瞬間、詰めてないスペックばかりの話になって、大局的な話はできなくなる。
・Hockey Stick(の形をした、急激に伸びる予測グラフ)を必ず入れろ。
・キャッシュを生みだす時期は、計画には早期と書くな。早期と書いたら、少ない額だけだされて、再来月に儲かってなかったらすぐに引き揚げられてしまう。
・商品のヒアリングはスタンフォード大学みたいなTech Savvyな人たちではなく、サンノゼ大の女子大生に対して行え。そうじゃなきゃスケールなんて得られない。
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