2010/04/23

(Offネタ)Fillmoreのすばらしさ

課題に追われ、風邪が続いて喉が痛い家内を無理やり引っ張り、水曜夜にサンフランシスコにあるFillmoreでのノラ・ジョーンズのライブに行ってきた。



ここは本当に贅沢な場所だ。収容約1200人、オールスタンディングの伝統的なライブハウス。木造の香りがして、上にはシャンデリア、横と後ろはクラシックなバー。2階のご飯どころでは、過去のアーティストの独自ポスターが立ち並び、ハンバーガーが旨い。


音の響き方もスタジアムとかとは全然異なる感じで、平たく言えば、地声がよくないと、うまく聞こえないような印象。だから、「この人、本当に歌うまいなあ」と生意気ながらも感じさせられる近さがある。本人が出てくる30分前くらいに行けば、本人から10mの距離で聞くことができるという凄さ。

日本で知らないだけなのかもしれないけれど、超の付く有名人がこういう身近なライブハウスでやってくれる(かつeBayで何とかチケットが買える)というのはなんとも羨ましい国だ、と思う。ナイトライフが少ないと揶揄されるスタンフォードでも、こういうエンタもあるよ、ということを一応書いておきます。


Fillmoreには、1月にも宇多田ヒカルのライブで行き、上記のことを薄々ながら感じさせられた。今回、それを確信。さほどライブに行く質ではない自分の選好を変えられてしまった。
もう、知ってるアーティストだったら誰でも行きたくなるレベル。
U3music "サンフランシスコ・フィルモア"

そのときには、なんとサインボールもゲッツ(参照)。下記の左上のもの。近いならではの特典?
U3music "Balls SF version"


音楽を、「本人の口から」間近でしっかり聞くと、音楽産業ってほとんどが、その粗悪な代替案であることを改めて感じさせらる。本来音楽には、生で聞いた演奏の追体験として、メディアを買う、という方法論が似合っている。ラジオやウェブで大量のPRをして、メディアやデジタルコンテンツへの購買につなげ、最終的にライブのセールスに落とし込んでいく、という方法論は、音を楽しむフローとはまさに間逆のもの。DRMを使っても、FREEの世界であったとしても、大量製造モデルの音源が最初に人の耳にはいる、というフローはある程度は変えられない。これ以上ないくらい当たり前のことなのかもしれないけれど、本当の体験に勝るものはなし。




2010/04/18

日本食スーパー凄し

なんとくさやまで販売。



たらこも安いです。



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2010/04/16

春学期:怒涛の7教科履修


そういえば、春学期が1日より始まっておりました。ちょうど2週間が経過。

現在、怒涛の7教科を履修中。週二回ずつあるので、一週間で14コマ!。さすがにやり過ぎかと思い、どれか科目を登録前に落とそうかと思っていたものの、それぞれのポテンシャルを測りきれず、広く薄く、という戦略を地で行くこととなった。9月に感じた再び学校で勉強できる!、という余韻にまだしっかりと浸っているためか、消化不良を承知でなんとかしてやろう、と思ってしまう自分がちょっと哀しい。


取っている授業は以下の通り;

必修コース
1)応用モデリング:価格と生産キャパシティをベースにした、線形計画法を中心とする授業。ごりごりエクセルを使う内容につき、割とストレスが低い、というか楽しんでやっている。

選択必修コース
2)オペレーション(応用):オペレーションの授業を、グローバルな視野で追及する、というもの。ほとんどの参考文献がコースを担当するのHau Lee教授の書いた資料となっているのが特徴的。在庫の最適水準とか、SCMといった、基礎がわかっていないといけない内容を、かなりハイスピードで飛ばしている。教授の話し方がこれ以上ないくらいにEntertainingなので、学生のモチベーションも高いのだが、自分は良く考えたら基礎ができていないので、あっぷあっぷしている。

3)Nonmarket Strategy:非市場戦略、とするの訳がわからないが、政治・メディア・CSRといった、いわゆる市場戦略以外のテーマを扱う。講師は政治学の先生。米国の政策形成の話とかが多く、一般化した話以外ではなかなか食い込むのが難しい。ただ、昔、公共経済学を学部の頃に一時期熱心に勉強していた甲斐があって、アカデミックな話題は結構ついていけているかもしれない。

4)人事管理:数ある人事関連の内容の中でも、「採用」に特化したコース。ベンチャーでの仲間選びや、中堅企業・大企業のCEOのHiring、といった内容をケースで学ぶ。すばらしいと感じるのは、ゲスト講師にアドビのCEOが呼ばれてきて、授業を普通にCEOが行ったりしている点。学生のテンションを上げる方法としてはたぶん最適なものとなっている。

5)管理会計(中級):Managerial Accountingを学ぶのは初めて。正直なところ、初級の内容も知らないのに履修しているのと、テクニカルな内容が今のところ多く、かなり大変な思いをしている。

選択科目:
6)戦略的サービス・マネジメント:サービス産業に特化したマーケティング戦略について、体系的に学ぶ科目。サービス産業では、4P分析とは異なるフレームワークが用いられたりと、意外と知らなかった内容がてんこもりである。また、自分が知らなかったサービスを、先生が程良くどんどん紹介してくれるあたりも、知的好奇心をかなりくすぐられる感じ。

7)アセット・アロケーションとマネージャー選択:これぞ応用ファイナンスという感じの授業。履修者のほとんどが金融機関出身者で、内容もかなり飛ばしている。オルタナティブ投資を中心に、アセット・アロケーションを行う際の注意点や、流動性リスクをリターンにどのように反映するか、金融危機のような尖度がおかしくなる投資環境に対して、どのような投資哲学を持つべきか、といった深いテーマを、経験豊富な教授二人と、ゲストスピーカーが教えるという内容。教科書はスウェンセンのPioneering Portfolio Management(運よく改訂が行われたばかり)。シラバスを見て、絶対に履修しようと決めた理由は、ゲストスピーカーの豪華さ。既に、慈善基金の回ではヒューレット財団が、大学基金の回ではスタンフォード大学基金の最高責任者が話に来ている。今後も、PEの回ではKKRのロバーツ氏、VCの回ではKPCBのバイヤーズ氏等、創業者で頭文字が付いている人が来る、という内容になっている。


書き出してみると、苦労しているのはオペレーションと管理会計。人事・モデリング・Nonmarketは、想像通りという印象で、選択科目二つでは、課題の量が控えめなので割と楽しんで学ぶことができている。ただ、宿題をしっかりこなすと、大体最近の就寝時間は3時前後になってしまっている(朝は毎朝0815から授業)。とはいえ、2つは半期科目なので、日本のGW過ぎくらいからは、すこし楽になる予定。


2010/04/13

iPad Hype


タイトルをどうするか一週間悩んだが、やはりHypeということにした。
この一週間強、世の中が真面目に回っている間、パロアルトの20代の間の会話は、何というかiPadというものに振り回されている。もちろん、最高にクールでナウいガジェットなんだけれど、やっぱり皆使い道に悩んでるんじゃないの、という感じで。

何度もブログに書いている、前学期のメンデルソン教授のE Commerceのクラスでは、このような期待先行型の新技術の受容について、主にHype Cycleという枠組みでの分析をしていた。その解説はネット上に転がっているのでご参照頂きたいが、要は新しいガジェットが出て、皆がわーっと騒いで、すぐに冷却したあと、本質的な普及が始まる、というものである。iPadはこの仮説をリアルタイムで検証する良い機会になりそう。


さて、今さらでのお断りではあるが、私はiPadを買っていない。当初、友人のiPadをいじってみたものの、初めてiPhoneを触った時のような感動がなく、その後も何人もの所有者に使い道を聞いて回っているのだが、これといった決め手が感じられないのがその理由。多くの友人は、基本的にメーラーか、シラバスやケーススタディを授業中に読む電子リーダーとして用いていた。まだちゃんと読書習慣を持っている人には出会えていない(Kindleを使った読書習慣がある人は周りには沢山いる)。あとは、原価が販売価格の半分くらいらしいから、いずれ値下がりするだろう、というデフレ期待も込みになっている。

もちろん、多くのブロガーが書いているように、プロコンを比較すれば色々と「人によっては」すばらしいツールになるのは間違いない。ただ、現状は、上記の画のPeak of inflated expectations、あるサイトの訳語によれば「過剰期待の頂」をまだ上っている最中にあるのではないか。

そんな物思いに耽っている中、先週、iPhoneのプログラマーを経て、現在iPadアプリを制作している気鋭のギークEvan Doll氏の話を聞いてきた。同氏はアップルにて6年勤務、うち3年間はiPhoneの開発を担当していた。また、巷で有名なスタンフォードでのiアプリコースを教えていた。現在はスタートアップにて新製品を作っているとのこと。ほとんど年齢は変わらなく、GSBの中にも何人か同級生がいるようだった。彼の講演の面白かった部分の内容をいかにまとめる。括弧内は感想。



・子どもがPCを初めて使う時によくわかるが、実はマウスは不自然な存在である。あれを排し、ユーザビリティが高い、という点がiPadのすごさ。
・iPadは皆がいる場所で使うもの。言いかえれば、Personal Computingを明確にSolitary Computingと分離したことが新しい。iPhoneをいじりながら食事は失礼なものだが、もっと大きな画面があると、共有的な経験ができる。
・今まで見たiPad用のアプリで一番凄いと思ったのはScrabbleアプリ。一台のiPadを囲んで、数台のiPhoneをコントローラーにして遊ぶことができる
・あと、iPhoneを使っている人には良く分かるが、カレンダーやメールがクラウド化されている点がいい。この安心感は何事に変えがたい。

Q マルチタスクについて
A アップルで何年か働いたことからの洞察としては、彼らのアプローチは、マルチタスクが本当にユーザビリティを提供するのであれば、やるのではないか、というものだと捉えている。実際にマルチタスクが用いられるケースというのは、そんなには多くない。たとえば、ファイルアップロードの間や、音楽をかけている時などで、割と絞られた環境でしかマルチタスクは起きないといえるのでは。目先は、マルチタスク化を全体的にやるのではなく、個別のアプリのスペックを、そういった限定的なニーズに合わせる形で対応するのではないか。
・マルチタスク化を迂闊に進めると弊害もある。たとえば、複数のAppを同時に走らせると、集中したい時に、ツイッターのアップデートで邪魔される、みたいなことだって起きる。

Q なぜ、iPadの開発には時間がかかったのか?
A 作る以上、デバイスを単に巨大化させるわけにはいかなかったはず。あと、そんなに対応できる技術者がいるわけでもない。一人の女性が9カ月妊娠して子どもを産むのを、9人の女性が1か月妊娠することで済ませるわけにはいかないのと同じ。

Q 今のベンチャーについて
A 色々と秘密。まだ名前も発表していない。アップルは楽しかったが、いい気分転換にはなっている。音声認識ではない(共同創業者の得意分野)。

Q 5年後の市場はどうなっているのか。
A 何かしらのKiller AppがiPadで出るようになれば(教育で、ちゃんと教育用に使える仕様のものが出る等)、市場構成が変わるようになるだろう。現状では、ほとんどの機能が使われないままになっている。想像することは可能だが、予測するのは難しい。起業には向いている環境だけれど。

Q Flash非対応について
・CrunchpadはFlash対応だったけどひどかった。
・Android上でのユーザー体験はあまりよくないと聞く。モバイル端末での対応にはハードルがまだあるのではないか。
・FlashはPCでの動作を想定しているものが多く、スムーズに表示できたとしても、ユーザビリティは高くないだろう。

講演は、GSBの生徒の質問を乱捕りするような形で行われたが、当人も、何がポピュラーユースとなるのかよくわからないけれど、ポテンシャルはある、という表現に終始していた。使い方は時代が決定するもの、ということなのだろう。なにぶん、すべて憶測なのに、こんなに盛り上がっている、という点が何だか面白い。ただ、iPadのトラキングストックがあれば、楽しい取引ができるのに、とも思ったりする。こんなことを書いていて、5年後くらいには大恥をさらしているのかもしれないけれど。


最後に、けなしてばかりも何なので、良い点も。

・なんだかんだで、最低ラインが499ドルという価格はすばらしい。Shibataismさんが仰るように、最低限、電子フォトフレームとしての価値があるから、実質価格350-400ドルくらいのガジェットとして捉える事ができる。家にWifi環境があるなら、既に十分魅力的な価格帯。
・繰り返しになるが、ケーススタディを授業に持ち込む、といった用途はかなり有望。
・お絵かきツール等、子ども・中高年といった、PC世代ではない層に対する訴求力は大きい。Wiiが非ゲーマー層を開拓したのと同じような、期待を持つことができる。
・これだけタッチパネルや反応速度がしっかりした、大型のパネルというのに触れるだけでも、少し感動するものがある。JRの駅の切符売り場でタッチパネルが使われてたりと、案外日本のあらゆる年齢層に訴求できる題材になるのかもしれない。

Slope of Enlightenmentに今後どのようにして今のHypeが発展していくのか、やっぱり気になるものである。

2010/04/03

トルコ:経済と政治の坩堝

  






「今の首相はチャベスとプーチンとアハマディジャドを合わせたような奴だ。おっと、もう一人忘れてた、ベルルスコーニだ。」

イスタンブールでの卒業生との懇談ディナーの最中、トルコ人の卒業生が会ってまもなく、こう言い始めた。

「この国はすばらしい成長を遂げている。けれども、自由の度合いは驚くほどに低い。」


GSBの修学旅行プログラムで10日弱、トルコの財界人と、大統領を含む政治家の方々を訪問するツアーに夫婦で参加してきた。トルコといえば、カッパドキア、アヤソフィア、そしてご飯はケバブといった、観光地のイメージがあったのだが、この春休みは、トルコと経済と政治について、 じっくり考える時間となった。

冒頭の自由にまつわる話でよく引き合いに出されるのが、2009年9月、トルコ
のテレビ・新聞で50%以上のシェアを占めるDogan Yayin Holdingに対し、32億ドル(約3500億円)の課税が突如なされた件(参照)である。課税の名目は、同社グループ内での株式売買に対するものとされているが、トルコで会った多くの人は、同社が政府の不正を糾弾したことへの報復に間違いない、と主張していた。32億ドルという金額は同社を破産させてしまう額に等しく、単に報道・言論の自由の侵害だという声が何度も聞かれた。


言論の自由に限らず、トルコという国は、色々な意味で厄介な問題を抱えている国である。トルコについての重要なファクトを挙げると;

●最も民主的なイスラム国家(人口の99%がイスラム教徒とも言われる。国として掲げる民主主義の要点は世俗主義(政教分離の原則))。
●EUに加盟することが60年近くも国のプライオリティになっている。ただし、フランス等との感情的な対立や、1974年のトルコのキプロス侵攻に端を発するギリシャとの対立により、この点はこじれにこじれている。
●NATOで米国についで大きな軍事力を有する。軍隊は最も尊敬される組織であり、建国の祖ケマル・アタチュルクの肖像はいたるところに、民主主義と自由の象徴として掲げられている。
●有史以来、陸の要所として地政学的な存在感が強い。オバマ大統領は就任後、カナダの次にトルコを訪問。なお、米国はEU入りを強く支援している。
●1996年より関税同盟がEUとの間で発効。このことにより、貿易に関する障壁はなくなった状態。経済的メリットが実現されたがために、逆に、政治的課題だけが残り、EU加盟を難しくしている印象。
●2001年よりAKPが議会における単独与党に。それまでの連立与党体制に比べ、リーダーシップの状態が改善され、それまでの長年の悩みであった不正やインフレ等の課題の多くが解決された。
●ただし、AKPでは世俗主義を重視するどころか、憲法改正を推進し、首脳による否定的発言が繰り返されている。野党CHPはこの点を強く糾弾。

ただし、この国には経済的な希望がある。AKPによる政権運営は、少なくとも経済的安定をもたらしており、国民の多くが経済成長のメリットを体感している。なんといっても、この国の人口は若い。平均年齢は28歳、勉強熱心な学生が多く、労働の質が高い。さらに、中流層向け市場としての潜在性も高く、携帯電話等への需要の見通しも明るい。ある企業の方が仰っ ていたように、「数年前までぜいたく品だったものを、手の届く値段で提供することが、この国では一番成功するビジネスモデル」となっている。需要不足にあえぎ、中国やインドでの競争も苛烈だし、とこぼす日本・米国・西欧の企業にとっては垂涎の市場ともいえるのかもしれない。

この国の現状は、高度成長期の頃の日本に似ているのかもしれない。官僚的な意思決定の多さ、勤勉な国民、人口構成からの配当(Demographic Dividend)、キャッチアップ型の経済構造等…
政治的問題/緊張がある一方で、経済におけるバラ色に近い見通しが、この国の危うい綱渡りを可能としているような印象を持った。エコノミストとしてこの国の今後を占うとしたら、BullかBearか、と道中何度も同級生に聞かれた。旅の初めの頃はかなりBearだったのだが、終わりの頃にはSlightly Bull、と答えるようになった。昔の日本や、90年代の中国と同じで、七難を抱えていても、経済成長は色んな安定と、希望を与えてくれる。黒い猫と白い猫の話と似ているのかも しれないな、と思った。


最後に、ツアーの間で感じた最もショッキングな出来事について書いておきたい。大統領邸での待合室においてのこと。

40数名の学生が部屋に通されると、トルコ名物のチャイと、甘いジュースが振舞われた。部屋は何ともシックな、西欧風のつくり。ふと壁を見ると、縦2m、横4mはあろうかと思われる、「中東」の地図が掲げられていた。同じものが見つからなかったのだが、イメージは下記のようなもの。

トルコは右端のあたりしか写っておらず、北はロシア、中央にイラン、東にインド、という構成になっている。そこに「欧州」は全く存在していない。この地図が、部屋の中で異様な存在感を放っている。まるで、戦争中の作戦本部のような佇まいで。

それを見たときに、何となく確信したのは、この国は、最終的には中東へのゲートウェイとして経済的なアイデンティティを確立していくのだろう、ということだった。それまでも、「トルコの東側と西側の、どちらにビジネス的な魅力があるのか」、と聞くと判を押したように東、という答えが返ってきていたのだが、トルコは欧州の工場としてではなく、イスラム圏に対する先行経済であろうとしているのだな、というメッセージがより強く感じられた。中東に対し、「じわじわと米国の協力を得ながら民主化が進むエマージングマーケット」という見方を得ることができたのは大きな収穫だったと感じる。