2010/10/01

昔最強女、今政治家修習生


GSBのパブリックマネジメントプログラム絡みのお誘いで、急遽カーリー・フィオリーナとの昼食会に行ってきた。

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昼食会というと、通常はもうちょっとフランクな場所であることが多いのだが、行ってみて一目瞭然、これは彼女の加州上院選に向けた列記としたキャンペーンだった。

フィオリーナといえば、誰もが知るFortune 20企業初の女性社長。1998年にForbes誌で世界で最もパワフルな女性として取り上げられ、99年にHPの社長に就任、その後の、コンパックとの合併のゴタゴタに至るまでの話も有名である。もともと、スタンフォードを中世史等の専攻で卒業した彼女は、ロースクールも一学期で中退し、受付嬢や経理、教師といった仕事を転々としていたことでもよく知られている。

フィオリーナのそういった背景の話は、うすうす聞いてはいたのだが、目と目が合う距離で今一度展開されると、ああ、この人はこの人で苦労してきたんだなあ、と中々ぐっと来るものがあった。やはり、受付嬢からHP社長へ、という本人の十八番のストーリーの説得力は、自由と自己責任・小さな政府志向の哲学とこれ以上ないくらいマッチしている。大方の人は、これでイチコロだろうなあ、と感じていた。

ただ、昼食会が進むにつれ、何となく違う印象が芽生え始める。この人は案外、企業経営といったスコープでは活躍するのかもしれないが、政治家としてはどことなく「押し」が弱いのではないか、という点である。
第一、述べている内容があまりにも共和党の平均値というか、代理スポークスマン的な内容である。おりしも、2010年のカリフォルニアといえば、メグ・ウィットマン(元eBay社長、というか成長の立役者)とフィオリーナという、スター経営者により展開される知事選・上院選が、米国の政治動向にどんな新しい流れを生み出すのかが、衆目を集めているところである。だが、正直なところ、投票権がない自分であっても、聞いていて何か個性がほしいと感じる内容だった。姿勢やしゃべる内容の率直さ、強さはビンビンと伝わってくる。しかし、一貫したPartisan的言動ばかりが目立ち、だんだんと集中力も途切れてくるような内容であった。

ただ、そこはさすがGSB、といえるような眠気を覚ます展開が待っていた。質疑応答に移行した後、いくつか「無難」な答弁を終えたあと、真横に座っていた学生司会者が、「質問があるのですが…」と切り出した。

司会「フィオリーナさん、今日は来て頂き、本当にありがとうございました。私の政治的ポジションは、あなたのそれとは違うのですが、大変興味深い内容でした」
フィオリーナ「ちょっと待ってください、どのようなあたりのことが違うのでしょう?」
司会「いや、ぶっちゃけ、全部です」
フィオリーナ「え??」
司会「正直なところ、あなたの減税案の話はいい加減だと思う。25万ドル以上の所得を得る家計への減税が持つ限界的な効果よりも、低所得者向けのベネフィットを多くしたほうがいいのは、みんな分かってることです。」
フィオリーナ「はい、そういう側面もあるかもしれません。ただ私が述べたかったのは、中小企業の経営者や、多くの子どもを抱える家計にとって、これは決して多すぎる額ではないということ、雇用にもつながること、を申し上げたかったのです」
司会「でも、25万ドル稼げる家計って、めちゃくちゃ恵まれてないですか?雇用も、そんなところではなく、景気に左右されるんじゃないんですか?」
(以下つづく)


選対の人達が一瞬でこのKYめ、という顔に変わったのが面白かったのだが、本質的なことをごまかしてほしくない、という司会からの熱意の産物のようなやりとりであった。司会の彼は、超の付く貧困層の出身で、ものすごく苦労しながらハーバード出て、投資銀行に勤めていた友人である。そこかしこで展開される美化されたストーリーに辟易していたのかもしれない。

そしてあっという間に1時間のランチは終了。ビジネススクールの学生のディベート能力が優秀なのもあるのだろうけど、あのレベルの議論で簡単に折れないでほしかったな、という感想が残った。ウィットマンの知事選に比べれば、守勢に立たされているとされるこのフィオリーナの上院選。今回は疲れていたのかもしれないけれど、もう少し厚い「面の皮」を養いつつ、ワシントンに新しい風を吹かせて欲しい、と思った。



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