2010/06/02
サービス・マネジメントの授業
今期履修していたもう一つの選択授業はマーケティングの一つとして位置付けられているStrategic Service Managementだった。サービス産業における競争力が、フィジカルな物・システムを売り物とする企業とどのように異なるのかを体系的に学ぶことが目的の授業なのだが、とにかく、授業が分かりやすくて、言われたフレームワークやアサインメントをこなしているうちに、基礎的な考え方が身に付く、という便利なものだった。2クラス合計の履修人数は30人くらいで、先生はUzma Khan助教授。本人が一番授業からメリットを得ていると口にしていて、飛行機の遅延でも困ったら「どうしましょう、お腹の赤ちゃんが・・・」等と相手を困らせる言葉を遠慮なくいうようになりました、と堂々としている。敵に回したくない教授の一人。
サービス産業と一言で言っても、その守備範囲は大きい。ありがちなものとしては、ホテル産業や、金融サービス産業がある。ただ、いまやほとんどの有名な企業は、フィジカルな物を売っていたとしても、部分的にはサービスが付随している。モノからサービスへ、の中でも最も著名な例はIBMだろう。サービスは差別化の要素とも、提供商品の本髄ともいえる訳で、とにかくまずは、そこで競争力をどうやってつけるか、どうやってそれを保つか、という点に授業の目的が置かれている。
さて、フレームワークの最大の特色を見ると伝統的なMBAにおける4P(Product, Price, Promotion, Place)分析に加えて、サービス産業では3つの新たな要素(People, Process, Physical Evidence)が加わっている。個別に見てみると;
People
サービス産業では、提供側は人が命、と捉えることもできるが、それは人事管理の問題として割り切られていた。たしかに、ヒト、というテーマは戦略レベルでは、適切な人員の採用・トレーニング・評価、といった話題に題材が限られてくる。それよりも、授業では、扱われた事例の大半が消費者としてのPeopleに着目していた。
従来、サービス産業では価格と質における一定のトレードオフがあるとされてきたが、ZipcarやeBay等のCo-creationが行われるサービスでは消費者が付加価値を作る形で乗り越えることが可能である。ただし、顧客がサービスを生産する、ということは、それだけ人為的ミスが起き易くなることも意味するため、コミュニティを作り、ユーザーの行動をある程度制約する仕組みが必要なことを繰り返し見ていた。うまくいったコミュニティは、低価格で、スイッチコストの高い顧客層を作ることができる。一方で、それを狙いすぎると、ニッチ過ぎて誰も寄り付かないサービスができることが多い。そのような形で、新たなトレードオフが生まれること自体、認識しておいて損はないというか、サービス構築に夢中になってしまうと見落としそうな気がするので「授業」という形で習っておいてよかったな、と感じる。
Process
サービスが商品として消費されるまでの間は、常に何かが失敗する可能性が潜んでいる。そこで、どのように大きな失敗を避けるか、失敗した場合にも、どのようにしてリカバリーを行うのか、といった点は、サービス提供企業の根本的な競争力になることも多い。
その学習方法として、課された課題が、「苦情レターを書け」というものである。各人、過去数ヶ月で受けたサービスの中で、最も憤慨した業者に対し、苦情を書き、返信があればその内容および、自分の感想を書きなさい、というもの。実際に、苦情を書き出してみると、その会社の経営面での改善点や、何があれば自分が満足したのか、という点が見えてくるのが面白い。私も、Turkey Tripで一日足止めを受けた某航空会社に対して、恨みつらみの限りを込めてレターを書いたのだが、クラスの中で内容が紹介されると、「やっぱり日本人はやさしいんですね」と言われてしまった。最もえげつない学生のレターは、某通信会社に対して、
「この度は、ギャンブル気分で通じなくなる端末を使わせて頂けた上に、カスタマーセンターの存在意義を真から問うようなサービスを売って頂きありがとうございます。
(中略)
ぜひ、今後のご対応についてお電話ください。軽く罵倒さしあげた上で、苦痛以外の何者でもない会話をご用意しております。」
と、なんともエレガントな英語で綴られたものだった。文才の授業じゃないんだけれど、顧客が求めるサービス水準と、それを裏切ったときの恐ろしさ、更にはそれをリカバーできないときのMonster化、という側面を一帯として学べる内容といえた。授業は取らずとも、一度しっかりと、航空会社とかには苦情レターを送ってみるのは良い経験になるのかもしれない。教授も、私は義務感を感じて、必ずどのサービス業者にも苦痛を感じたらレターを送るようにしている、と言っていた。
Physical Evidence
さらに、サービスの印象を最終的に担保するのはモノだ、という視点が加わる。とりわけ、デザインという言葉には重きが置かれ、IDEOや、航空機の設計者、といったスピーカーを招いて、どうやったら消費者・提供者双方の動きを、望ましい形に誘導するか、という点が強調された。
例えば、旅客機の設計では、飛行機に乗るという一般には「苦痛」な体験をどうやったらやわらげられるのか、という問いに答えるべく、様々なイノベーションが起きていることを知る。同じスペースの制約の中でも、窮屈に感じないアームレストの高さ、天井の色を青くすると中が広く見えること、ガラスの遮光度を自動調整して、誰でも窓の外を楽しめるような設計にする等。旅行者は、時間・メートル辺りではホテルのスイートルームよりも遥かに高い金額を飛行機の一空間に払っている。技術的な変化により、過去にはなかった形で、サービスの内容や満足度、さらには眼点そのものも変えられる、という点は、しばしば忘れがちだが、重要なチェックポイントだろう。
上述の新たな3つのPのほか、伝統的なPの中でも、例えばPriceにおいては、高い価格を設定して、期待値を上げる(その分失敗しやすくなる)のが良いのか、中程度の価格でポジティブサプライズをもたらすのがよいのか、といった論点がある。心理学・行動経済学の実証の中では、前者の方が好ましい、という結果が出ていたりする。他にも、心理学的に、どうやったら「ぜいたく品」を買いやすくなるのか、例えば、何かお客さんの言い訳を用意してあげたり、偽悪的なプレゼンが奏功したり、といった例が取り上げられていた。
これらの、一般とは異なるフレームワーク・視点を踏まえた上で、最終課題は、チームで新たなサービスの提案を行え、というもの。「ダブルデート専門出会い系サイト」や「デパートのオンラインコンシェルジェ(買い物を一緒にフォロー)」といったプロジェクトが出る中、自分のグループは、「テントをアマゾンの奥地で張る超高級ホテル」というアイデアを展開。実際に、急激に伸びているLuxury産業のセグメントで、一泊1000ドル程度の価格帯で、雄大な自然の中で宿泊する、というものである。あまりにプロジェクトが盛り上がってしまって、メンバーの一人はサマーインターンをその中の大手Exploraで始める始末。
こんな感じで、わいわいと、心理学・行動経済学・伝統的なマーケティング理論をまぜこぜしたこの授業は大変楽しかった。こういう視点を、多少硬いフレームワークの元に沢山詰めこめるのが、MBAの良さなのだろう。それぞれのトピックに、本当はもっと深いテーマがあるのだけれど、それをある程度実践的なポイントだけに押さえる構成は、さすが、と感じた。
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