中間試験前で慌しいGSBの毎日。そんな中、ロシアで投資活動を行う卒業生ビル・ブラウダー氏の講演があった。ここ2年ほどで聞いた中では、一番エキゾチックな内容の講演だった。
同氏はロシアで13年前よりエルミタージュ・キャピタルという運用会社を創立している。ロシアでもっとも有名な「アクティビスト投資家」であるそうな。ただ、そこにいたるまでのキャリアも非常に面白い。以下だらだらと箇条書き。
・祖父はカンザス州出身。祖父は牧場を経営していたが、売却することになり近くの工場に勤務。工場内の組合活動で頭角を現し、次々に大きい組合へと転進。組合活動が嵩じて、最終的にニューヨークで「米国共産党書記長」となる。その後、ロシアに移動し、祖母と出会い結婚。米国に戻る。
・そんな祖父を持つビルは(共産党一家に対する)反抗期になってスタンフォードGSBに進学。しかし、就職する前になって自分の競争優位は祖父だ、と気づく。東欧でのビジネスを2年生だった1989年に模索。そんな人は当時全くいなかった。
・ボストンコンサルティングのロンドン支局に変わったマネージャーがおり、「東欧ビジネスが立ち上がった際には君が責任者になれ」というお触れで採用。さっそく、東欧でのコンサル仕事を探し始める。
・当時、ちょうどポーランドのバス会社が世界銀行がらみでコンサルを探していた。仕事自体はリストラ絡みのつらいものだったが、現地の新聞を眺めながらポーランドでは民営化が進展していて、株式の公募が行われていることを知る。財務諸表を見てみると、どう計算しても「株式の公募価格が前年一株利益の半額」という水準になっており、とりあえず全財産の4000ドルを同株式につっこんで見た。
・1年後、株価は10倍に。10倍に増えるのを見ると、身体に変な薬物が流れるのを感じた。東欧はとんでもない場所なのではないかと思い、ビジネスをしなければ、と確信。
・ソロモン・ブラザーズに移籍。入社当日、「給料の5倍稼がなかったらクビ」と宣告される。で、とにかくポーランドやハンガリーの民営化案件を回ってみるが、全くサークルに入れてもらえない。しょうがない、と思っていた中、ロシア市場にもたまたま目を向ける。当時ソロモンはおろか、ウォール街の人間は誰もロシアで投資銀行業務をやっていなかった。東欧担当だったので、勝手にロシア担当も襲名。
・ロシアで、漁業権の買収に関する助言案件をゲット。20億ドル相当の船舶を、250万ドルで買うべきか、という助言であり、おそろしく簡単であると共に、例の薬物が流れるのを再度感じる。
・こんなに美味しい話があるわけがないと、モスクワで情報収集を実施。すると、今度は国民に国営企業の民営化バウチャーが配られていることを知る。その額が、全国有企業の30%の株式で100億ドル。安すぎると感じ、ソロモン内で騒ぎ始めたが、当時は「お前どうかしてる」という態度で相手にされなかった。
・当時の超上級幹部からこの件でプレゼンを頼まれる。熱心にプレゼンをするも、彼は興味がなさそうにしており、全く相槌を打つことなく、20分ほどしたら部屋を出て行ってしまった。途方にくれていると、十分後に戻ってきた。「こんなにすごい話は聞いたことがない。リスク管理部に今2500万ドル投資するよう言ってきた」。
・投資を行ってみたところ。7ヶ月でポートフォリオが5倍に。
・1億ドル稼いだ男としてエコノミストに紹介される。同時にソロモン内で一躍引っ張りダコに。社内にロシア・タスクフォース委員会が設置されるも、どう見てもパートナーが自分の手柄の横取りをしているようにしか見えなかった。退社し、1996年、自分でエルミタージュ・キャピタルを創業。
・とある大型プライベートバンクから2500万ドルの運用資金を獲得。投資先として、石油企業に目を付けた。当時。クレディスイスがアナリストレポートを発行している会社は、ほとんど差がない同業他社の10倍の株価がついていた。よって、カバーされていない銘柄を独自に調査をし、投資。
・最初の一ヶ月で35%、二ヶ月目に40%のリターンを記録。プライベートバンクの顧客から運用資金が殺到し、一気に元本が1億ドルに。その後、18ヶ月で800%のリターンを記録した。
・30代前半、800%、楽しい毎日、ヨット生活のススメ。これらは、全部「売り」のシグナルだったのだけど、全部見過ごしてしまった。
・ロシア危機が発生。10億ドルの運用資産は一気に1億ドルに。資産が減る中で、投資先企業からロシアの不正勢力に資産を強奪されていたことに気づく。
・情報を集めると22人の重要人物が、ありとあらゆる形で、国有企業等から原油等の権益を奪っていた。
・当時、ガスプロムはエクソンモービルに比べて0.3%の株価しかついていなかった。その理由は権益が強奪されていると思われていたから。ただ、さすがに0.3%はないだろうと思い、調査を開始。40人の重要人物に会食を申し込む中で判明したのは、人々の不正に飽き飽きした態度と、すさまじい額の横領であった。9人の重要人物が、エクソンモービルの有する権益の規模に相当するガス田を手に入れていた。しかし一方で、その規模はガスプロム全体の9%に過ぎず、まだ多くがガスプロムに残っていることも分かった。
・さっそく投資を実行。同時に調査結果をFTやWSJ、ビジネスウィーク等のメディアに一斉に送りつけた。クレムリンは火の海に。同年後半、プーチンが大統領に就任して最初に行ったのは不正問題の浄化であった。
・ガスプロムの株価はその後100倍に。その後も銀行等への投資を行って今に至っている。
その後ビデオによる解説
http://www.youtube.com/watch?v=ok6ljV-WfRw&hl=ja
要点は
・07年に国家安全上の脅威として入国拒否。その後のダボス会議でメドベージェフ氏にビザの発行を頼むが、快諾されたと思ったら、自分のオフィスへの捜査が行われる。持ち出された企業の重要資料を用いて、12.6億ドルがなぜか横領される。その上、2.3億ドルの納付済みの税金が別の犯罪グループに横領される。担当弁護士も逮捕されたりしていて、色々大変。
ブラウダー氏はソロモンで荒稼ぎした人に多いような気がする涙袋をしていた。それは良いとして、最初はアントレ的な視点でビジネスを拡大しながら、いつの間にか命を狙われるような存在になる躍動感。1時間の講演で聞けたことは限られていたが、パワーはすさまじいものがあった。
日本でもジムロジャーズの世界行脚本が結構読まれていたりするくらいなので、90年代央のようなエキゾチックな海外投資というのは、ちょっと今の世界では考えづらい。ただ、同じくらいに誰の視点の中心にもない運用機会・ビジネスというのは存在するはずで、そんな対象に頑なにコミットする人ってこういう人なんだな、という感想を持った。あと、独特の出自というのは別に成功していなくても話として面白かった。そういうものを大切にしながら、ビジネスをすることは大事なんだなあ、と感じた。
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