2010/04/13

iPad Hype


タイトルをどうするか一週間悩んだが、やはりHypeということにした。
この一週間強、世の中が真面目に回っている間、パロアルトの20代の間の会話は、何というかiPadというものに振り回されている。もちろん、最高にクールでナウいガジェットなんだけれど、やっぱり皆使い道に悩んでるんじゃないの、という感じで。

何度もブログに書いている、前学期のメンデルソン教授のE Commerceのクラスでは、このような期待先行型の新技術の受容について、主にHype Cycleという枠組みでの分析をしていた。その解説はネット上に転がっているのでご参照頂きたいが、要は新しいガジェットが出て、皆がわーっと騒いで、すぐに冷却したあと、本質的な普及が始まる、というものである。iPadはこの仮説をリアルタイムで検証する良い機会になりそう。


さて、今さらでのお断りではあるが、私はiPadを買っていない。当初、友人のiPadをいじってみたものの、初めてiPhoneを触った時のような感動がなく、その後も何人もの所有者に使い道を聞いて回っているのだが、これといった決め手が感じられないのがその理由。多くの友人は、基本的にメーラーか、シラバスやケーススタディを授業中に読む電子リーダーとして用いていた。まだちゃんと読書習慣を持っている人には出会えていない(Kindleを使った読書習慣がある人は周りには沢山いる)。あとは、原価が販売価格の半分くらいらしいから、いずれ値下がりするだろう、というデフレ期待も込みになっている。

もちろん、多くのブロガーが書いているように、プロコンを比較すれば色々と「人によっては」すばらしいツールになるのは間違いない。ただ、現状は、上記の画のPeak of inflated expectations、あるサイトの訳語によれば「過剰期待の頂」をまだ上っている最中にあるのではないか。

そんな物思いに耽っている中、先週、iPhoneのプログラマーを経て、現在iPadアプリを制作している気鋭のギークEvan Doll氏の話を聞いてきた。同氏はアップルにて6年勤務、うち3年間はiPhoneの開発を担当していた。また、巷で有名なスタンフォードでのiアプリコースを教えていた。現在はスタートアップにて新製品を作っているとのこと。ほとんど年齢は変わらなく、GSBの中にも何人か同級生がいるようだった。彼の講演の面白かった部分の内容をいかにまとめる。括弧内は感想。



・子どもがPCを初めて使う時によくわかるが、実はマウスは不自然な存在である。あれを排し、ユーザビリティが高い、という点がiPadのすごさ。
・iPadは皆がいる場所で使うもの。言いかえれば、Personal Computingを明確にSolitary Computingと分離したことが新しい。iPhoneをいじりながら食事は失礼なものだが、もっと大きな画面があると、共有的な経験ができる。
・今まで見たiPad用のアプリで一番凄いと思ったのはScrabbleアプリ。一台のiPadを囲んで、数台のiPhoneをコントローラーにして遊ぶことができる
・あと、iPhoneを使っている人には良く分かるが、カレンダーやメールがクラウド化されている点がいい。この安心感は何事に変えがたい。

Q マルチタスクについて
A アップルで何年か働いたことからの洞察としては、彼らのアプローチは、マルチタスクが本当にユーザビリティを提供するのであれば、やるのではないか、というものだと捉えている。実際にマルチタスクが用いられるケースというのは、そんなには多くない。たとえば、ファイルアップロードの間や、音楽をかけている時などで、割と絞られた環境でしかマルチタスクは起きないといえるのでは。目先は、マルチタスク化を全体的にやるのではなく、個別のアプリのスペックを、そういった限定的なニーズに合わせる形で対応するのではないか。
・マルチタスク化を迂闊に進めると弊害もある。たとえば、複数のAppを同時に走らせると、集中したい時に、ツイッターのアップデートで邪魔される、みたいなことだって起きる。

Q なぜ、iPadの開発には時間がかかったのか?
A 作る以上、デバイスを単に巨大化させるわけにはいかなかったはず。あと、そんなに対応できる技術者がいるわけでもない。一人の女性が9カ月妊娠して子どもを産むのを、9人の女性が1か月妊娠することで済ませるわけにはいかないのと同じ。

Q 今のベンチャーについて
A 色々と秘密。まだ名前も発表していない。アップルは楽しかったが、いい気分転換にはなっている。音声認識ではない(共同創業者の得意分野)。

Q 5年後の市場はどうなっているのか。
A 何かしらのKiller AppがiPadで出るようになれば(教育で、ちゃんと教育用に使える仕様のものが出る等)、市場構成が変わるようになるだろう。現状では、ほとんどの機能が使われないままになっている。想像することは可能だが、予測するのは難しい。起業には向いている環境だけれど。

Q Flash非対応について
・CrunchpadはFlash対応だったけどひどかった。
・Android上でのユーザー体験はあまりよくないと聞く。モバイル端末での対応にはハードルがまだあるのではないか。
・FlashはPCでの動作を想定しているものが多く、スムーズに表示できたとしても、ユーザビリティは高くないだろう。

講演は、GSBの生徒の質問を乱捕りするような形で行われたが、当人も、何がポピュラーユースとなるのかよくわからないけれど、ポテンシャルはある、という表現に終始していた。使い方は時代が決定するもの、ということなのだろう。なにぶん、すべて憶測なのに、こんなに盛り上がっている、という点が何だか面白い。ただ、iPadのトラキングストックがあれば、楽しい取引ができるのに、とも思ったりする。こんなことを書いていて、5年後くらいには大恥をさらしているのかもしれないけれど。


最後に、けなしてばかりも何なので、良い点も。

・なんだかんだで、最低ラインが499ドルという価格はすばらしい。Shibataismさんが仰るように、最低限、電子フォトフレームとしての価値があるから、実質価格350-400ドルくらいのガジェットとして捉える事ができる。家にWifi環境があるなら、既に十分魅力的な価格帯。
・繰り返しになるが、ケーススタディを授業に持ち込む、といった用途はかなり有望。
・お絵かきツール等、子ども・中高年といった、PC世代ではない層に対する訴求力は大きい。Wiiが非ゲーマー層を開拓したのと同じような、期待を持つことができる。
・これだけタッチパネルや反応速度がしっかりした、大型のパネルというのに触れるだけでも、少し感動するものがある。JRの駅の切符売り場でタッチパネルが使われてたりと、案外日本のあらゆる年齢層に訴求できる題材になるのかもしれない。

Slope of Enlightenmentに今後どのようにして今のHypeが発展していくのか、やっぱり気になるものである。

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