2010/05/24

アセット・アロケーションの授業の半端ない豪華さ


今学期は、本当に授業を詰め込みまくったために、ブログを書く暇がなかったのだが、いくつか半期科目が終わって少し余裕ができてきたので、履修している2つの選択授業についてご紹介したい。
まず一つ目は、アセットアロケーションとマネージャー・セレクション(資産運用における、最適資産配分に関する考え方と、その実務、といった内容)、という、コテコテのファイナンスの授業について。

まずこの授業、二人の先生による共同講義となっている。一人はこの道30年近いPfleiderer氏、もう一人はOak Hillというプライベート・エクイティMoMの共同創業者であるWolfson氏である。Wolfson氏が大まかな概念の説明をし、Pfleidererがモデルによるその適用を考え、ゲストスピーカーで真実性を検証する、という形式を取っている。もっとも、コマ数のほとんどはゲストスピーカーによって構成されており、その内容も90分間、教授二人は横で腰掛けて、ほとんど何もしないという、授業放棄型。これが、たいそう豪華で面白いことになっている。

少し、学術的なことを書いておくと、アセットアロケーションは、資産運用における付加価値の80~95%を占めるという実証研究がある(計測する方法により異なる)。つまり、「あの時、あの株・あの土地を買っておけばよかった」、と悩む判断よりも、「今手元にあるお金を、株や債券、不動産とかに、それぞれどれくらい投資するべきか」と悩む判断のほうが、5~20倍ほど重要だ、ということになる。本来、資産運用を考えるときには、この大事な判断に本当は時間を割くべきなのだが、多くの人は、もっと想像力が働きやすい銘柄・タイミングに集中してしまう、というジレンマがある。この講義では、このようにより重要とされる配分方法をどう決めるか、という方法論と、いざアロケーションを決定した後に、どのようなファンドに投資するのが良いのか、という点に重きを置いている。コースとしての面白みを持たせるためか、ほとんどのトピックは非伝統的資産(プライベート・エクイティ、ベンチャーキャピタル、ヘッジファンド等)に置かれており、その業界が持っている魅力と危うさを語る内容となっている。

肝心のゲストスピーカーなのだが、その布陣は凄い。

(1)ヒューレット財団運用責任者
(2)スタンフォード大学基金運用責任者
(3)カルパーズの元オルタナティブ運用責任者
(4)ジョージ・ロバーツ (KKR の R)
(5)ブルック・バイヤーズ (KPCB の B)
(6)GMO(米の著名運用会社)アジア地域運用責任者
(7)アジア・オルタナティブス(アジアPEのFOF)創業者
(8)PEのセカンダリー取引専門ファンド創業者
(9)ファラロン・キャピタル(ヘッジファンド)海外投資責任者

いくつか、この中でも記憶に残った部分を書きとめておきたい。ファイナンスのことだけでなく、人生論について、多くのことが聞けたのが印象的だった。


ジョージ・ロバーツ
彼は、プライベート・エクイティ産業の始祖といえる存在であり、80年代にはかの有名なRJRナビスコへの買収をしかけて、その顛末がBarbarians at the Gate(参照)なる映画になったりと、資本市場の世界にいて、どうしても会ってみたい人の一人だった。

授業の後半で一つ、ファイナンスというよりも、人生訓を聞きたく、彼に質問をぶつけてみた。

「あなたは、70年代にそれまでなかった金融サービスを立ち上げて、以来、野蛮人だとか、欲の塊だとか、社会の必要悪みたいに扱われてきた。それはあなたにとって、どんな意味があったのか?」

すると、全く顔色一つ変えることなく

『しんどいと思ったことは一度もない。大変な時はあっても、やるべきことがあれば、別に月曜の朝起きて、早くオフィスに行きたいと思うものだ。90年代はリターンが冴えなかったけれど、だからといって落ち込むことじゃなかった』

とすっぱりと答えてくれた。


某スピーカー
かなりの時間を掛けて、専門分野について語った後、最後に数分だけ聞いてください、と話し始めた。
「皆さんのキャリアを占う上では、運を大事にして、謙虚さを忘れずに、時間を楽しむことを大事にしてください。そして、できるだけ、面白い人たちと仕事をしてください。素晴らしいパートナーと、よきメンターを見つけてください。」
「私には、難病の息子がいる。カルパーズの仕事へ当時移ったのも、彼と時間をできるだけ過ごしたいと思ったからだ。難病の息子は、きっと結婚することができない。きっと、私が死ぬまで、一緒にいる存在になるのだろう。ただ、私はそんな息子がとても大切だ。もはや、難病なしの息子を持つことなど考えられない。人生には、仕事で達成すること以外にも、あまりに多くの側面がある。それを大事にしながら、ビッグな仕事を成し遂げられれば、それは本当に幸せなことだと思います」

ブルック・バイヤーズ
バイヤーズ氏には、春に行われたチャリティ・オークションでランチを同氏のオフィスで同級生としにいったのだが、その1週間後に授業で再開する、という形になった。KPCBは、間違いなくシリコンバレー一の存在感を誇るVCであり、パートナーの面々を見るだけでも、圧倒的な存在感を誇っている(副大統領だったあの人とか)。世界各国から、同社の提供するファンドに投資したい人たちが、文字通り行列を成している。

「ベンチャー・キャピタルというのは、資本市場の中ではごく一部を占めるだけの存在だ。あまり、多くなるべきものではないし、アセットアロケーションのうちの5-10%でも占めれば十分すぎる」
「ベンチャー・キャピタルは、金融業ではない。むしろ、人をどこから連れてきて、どんなチームとして育てて、といった、組織作りのプロだ」
「本当のベンチャーマネーは、拡大に用いるべきではなく、本当に大事な情報の検証だけに費やすべきだ。たとえば、試験場を確保できるかとか、重要な試薬を手に入れられるかとか。人件費とか、マーケティング目的で投資を行うわけではない」
「ITバブル期にローンチしたファンドは、我々であってもネガティブリターンだったりした。それだけ、あやふやとした世界であることは分かっておくべきだろう」

ある種、虚飾の一切ない、ピュアな組織はこういうものかと感動した。できることだけを実直にやりつつ、強かに対象を拡大するという、KPCBそのものの組織力は、誰もが羨むばかりで真似ができないという、本当の経営におけるArtを感じることができた。

ファラロンの海外投資責任者にしてみた質問
非常に体系的に、世界経済のトレンドに関する話をされている最中、質問してみた。
「バブルについて何度か言及されているが、実際にはヘッジファンドの投資ホライゾンと、バブルが存在し続ける期間は一致しない。そのもどかしさを、どうやって処理されているのか?」
『バブルにベットすることは、できない。ただ、崩壊に対応することはできる。危険なものを危険だと認識し、防御策を打っておくこと。プロとしてできるのは、これくらいだ。』


某スピーカー
「今まで、HBSの卒業生同期3人で事業を立ち上げ、強く支えあいながら、これまでやってきた。しかし、先週のミーティングの最中に、彼女は突然倒れ、数日間意識を失った状態だった。自分としても、まさかの事態で、現実として受け止めきれていないのだが、それでも投資家は、創業者のチームとしての強さを信頼して、投資を引き上げることはしなかった。こういう形でビジネスをやっていて、本当に良かったと思った。」





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